2009年5月29日金曜日

街のストーリー

人間・環境学会に行ってきました。

大阪大学の木多先生が話されたことが面白かったので、ちょっと書いてみます。

建築計画の研究で、街の記憶を扱ったものがあります。
 
私は毎日那須連峰を眺めていました。家の裏は田んぼで、夏は蛙の鳴き声がうる
さかったものです。そういう記憶に残る原風景が、新しい建物が建ったり、建て
変わったりすることで消えていくのは寂しいものです。そこで、街並みにも時間
的な連続性を持たせようという発想が出てきます。更地にして新しい建物を建て
るのではなく、古い建物の一部を残して建て替えるとか、周辺と連続感を持たせ
たデザインにするとか、そういったことです。日本は戦後、急激に昔の面影を無
くしましたから、そういうデザインを望ましいものと捉える人達がいるのです。
 
ただ外観を真似るのではなく、記憶されている思い出を掘り起こし、それをデザ
インに結びつけようという考え方もあります。ちょっと汚いかも知れないが懐か
しい下町の風景にも価値を見いだし、保存・継承していこうという考え方は、そ
ういう発想から生まれます。それは思い切り「心理」な訳です。
 
さて、木多先生は、フィールドに定めたブタペスト、そこは近年急激に建て替え
が起こっているのだそうですが、そこで人々が作り上げてきた空間の良さを見つ
け出し、それを残していくことを提案したいようでした。そこで出てくるのが
「街の記憶のストーリー」ということなのだと思います。
 
一人一人が記憶のストーリーを持っている。それを寄せ集めるのではなく、空間
をキーにして共有することができないか。そうすれば、記憶と結びついた味わい
のある空間の建て替えに待ったを掛けることもできるかもしれない。そういう思
いがあるのでしょう。
 
一人一人の記憶を聞き取るという丹念な作業、そこから共有できるコンセプトを
抽出するという飛躍。後者をどう進め、有効なストーリー(=コンセプト)を導
き出せるかが鍵だとしても、その決まった手法があるわけではない。そこに悩み
があるようでした。
 
私は彼の話に共感しました。特に一人一人の記憶を手繰る作業だけではなく、そ
れを呈示可能な形態に変換しようという意思に。そういうことが大切だと思うの
です。
 
まだ形を成していないと仰っていましたが、その片鱗は見えてきているようで
す。今後の成果に期待しています。

PS.
前半のキーノートスピーチについては、感じたことを「ちくりんのたわごと」の
ページに書きました。

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