2011年10月25日火曜日

書評:無料ビジネスの時代

吉本佳生「無料ビジネスの時代」ちくま新書

先日、CanCam編集長の話を聞いた。それ自体、大変面白かったのだが、昼食会の
時に聞いた、無料ビジネスの話が気になっていたので、たまたま この本を見か
けた時に手にしたのだった。大いにアタリであったと思う。

私はGoogle MailやDropboxやEvernoteやfacebookといったサービスを使う。大し
て広告料が入るとも思えないこういったビジネスが、なぜ無料 で提供できるの
かわからない。これが嶋野氏への質問だったのだが、彼の答えは「たまに有料の
サービスを使ってくれる人がいればペイする仕組みに なっているのですよ。」
ということだった。数十人に一人、もしくは数百人に一人が有料サービスを利用
すれば元が取れる、そういうサービスをこの本 では株式型の無料サービスと呼
んでいる。

これまで主流だったのはローン型の無料サービスだった。携帯電話が本体価格0
円で購入できるのも、数年掛けて本体価格の分を分割して払う仕組みに なって
いたからだ。それとは異なる携帯の「無料」が生まれてきたという訳だ。

株式型の無料サービスが、これからの日本の消費を増やすのに役立つというのが
著者の主張だ。お金がない人に、「先に払えばいいから、今買い物し ちゃいな
よ。」と勧めるやり方は、サブプライムで崩れた感がある。お金がある人から多
く、ない人からもちょっとずつもらうというような戦略が必要 だというのだ。
この戦略の立案には顧客情報が不可欠だが、そのあたりは情報化社会になって、
どんどん収集しやすくなっているという。

TDLの価格戦略に、「もらえる人から多く」もらう戦略が含まれているなどと
いったトピックもあり、なかなかに面白かったのだが、大学の経営に使 えるか
どうかは、よくわからない。(教育費というのは、これまで値段が上がることは
あっても、下がることはなかったらしい。)
これからは、お金を払う時に「人の分も払っているのだな。」と思ったりするの
だろう。お金を払わない時に「誰かが払ってくれているのだな。」と 思ったり
するのだろう。
なんだか、税金みたいな話ですね。

P.S.
資源価格の高騰にも関わらずデフレになるのは、価格に占める人件費が大きいか
ら。だから人件費の部分で価格を抑えることになり、抑えられた人は職 に就け
なかったり、低賃金になったりする。で、二極化が生まれる。こういうことも書
いてあった。

2011年10月14日金曜日

書評:孤独な心

落合良行:孤独な心、サイエンス社

「淋しい孤独感から明るい孤独感へ」という副題が付いている。

社会心理学者が、自分で見つけた「孤独感」というテーマをどう掘り下げていっ
たか、それを一般向けに記述した本である。私にとっては、研究のあり 方に大
変シンパシーを憶え、考えさせられる本であった。

(1)孤独感を定義づける
孤独に関する記述、哲学書や小説や辞書や自分の体験や、そういったものから、
孤独というものを自分なりに定義づけ、それを文章完成法(孤独を感じ るのは
「     」時である。」という文章の(  )内に分を入れてもらう。)で
確認する。
2つの側面が出てきたので、それらを表現する事柄を質問紙として調査し、因子
分析によって2軸が抽出されることを確認する。
2軸は、人間は個別なもの・異なっていて当たり前と感ずるか否か、現実に関わ
り合っている人達と理解可能と感ずるか否かである。

(2)時系列での孤独感の把握
青春期と老年期では孤独感が異なるのではないか。多くの年代で標準化した孤独
感テストを行ってみると、時間的展望に関する3軸目が出てきた。

(3)孤独感の類型の把握
2×2の象限を考えると4つの類型が得られる。その特徴を質問紙を作成して明
らかにする。

(4)他の感情との関連を調べる
孤独感と劣等感、疎外感といったものの関係を調べるために、多くの感情を日頃
どの程度感じているかの調査を実施。クラスター分析、因子分析などを 用い
て、関連を図示。関連の深い感情、グループとして感じられる感情を明らかにした。
児童期は疎外感、青年期には不安感・孤独感も関連、成人前期には憂鬱や無気
力、後期には疎外感・嫉妬・倦怠感など。このように、孤独感と関わる感 情が
時系列的に変化することがわかった。

(5)事例研究
カウンセリングの事例を通して、現実の孤独感を分析

...この流れは、非常にオーソドックスでもあり、手堅いものでもある。しか
し、まず概念を仮に定義し、実験的手法で得られたデータによりそれを 修正し
つつ明確にし、個人差や時間的な変遷まで踏み込み、しかし全体的な傾向を見る
ことで失われたであろうことを個別の事例から掬い上げるという 態度は、まさ
にお手本ではなかろうか。
量的研究と質的研究のあり方も、本来、こういうものである気がする。

2011年10月10日月曜日

日本版スローシティ

最近、商店街など歩き回って観察しているのだが、先日、佐世保の「さるく
403」商店街に行った時に、ネットで見つけたのが著者である久繁哲之介 氏の
ペー ジだった。

この本は、巨大資本が街に乱入してくるのを良しとしない、もしくは地方が衰退
していくのをしのびないと思っている人に取っては必読の書であろう。 うー
ん、こう書くと本当ではないか。街づくりということを少しでも考える人には一
読を勧めたい。

以下、いくつかの記述・内容を抜き出してみる。
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「成功の事例、その実現手法」が欧米の場合、そのライフスタイルに合っている
から成功するのである。手法だけ真似ても、日本でうまくいくわけがな い。

イタリアやパリでの散歩(パッセジャータなど)は、都市や人と交流する舞台で
服装にも気を遣うが、日本では健康のためなので、ジャージ姿である。 日本で
は散歩で都市が活性化するわけはない。

車を移動の手段と考えて、公共交通を整備すればいいか。いや、地位やステイタ
スと関わるヴィブレン消費なのである。その視点を持たないと、政策を 見誤る。

グローバル・リテイラー(有名なチェーン店)は地域経済の活性化に寄与しな
い。一括購入して他地域から運び込んだものを、パート・アルバイトを 使って
売りさばく。ローカル・リテイラー(地元の商店)は、地元産の物を扱い、正社
員を雇って、地域内で雇用創出とお金の循環と税金の納付を担 う。

西欧はカップルが単位として動く。そういう街は美しい。
日本は男の街、女の街ができつつある。恋愛マーケティングは成立しない、カッ
プル減少社会である。

男性が稼ぎ、女性が家を守るという伝統的な考え方は、まだまだ根強い。しか
し、社会の賃金構造はそれを許さない。結婚適齢期の男性の収入は、激減 して
いる。それが、女性のご機嫌取りに疲れた男性を萌える趣味に向かわせる。女性
も適当な男性に巡り会える確率が低いため、女子会に走る。
カップルが減少する訳である。

スローシティ:地域固有の文化・風土を活かす都市
ヒューマニズム:人間中心の公共空間を、ゆっくり歩ける
スローフード:地域固有の食を、ゆっくり味わえる
関与:地域固有の文化・物語に、市民が関与(参加)できる
交流:ゆっくり話せる・観れる・癒される
持続性:市民のライフスタイル・意向を把握する

裏原や巣鴨は、物語に関与できる
交流型の業種(無駄話ができる)
顧客のライフスタイル・意向を把握した品揃え・サービス

街路市
商店街空き店舗対策にもなる
消費者のメリットは、
産地直送の商品を安く調達できる
普段出会えない農家の人と交流を楽しめる
「おまけ」を得たり、「値切る」楽しみがある

小布施の蔵の保存
セーラ・マリ・カミングス(外部の視点こそが大事→開放型コミュニティ)

神戸
市街地への観光客数は増加している
旧居留地連絡協議会
コミュニティ活動が魅力を生んでいる(神戸ルミナリエ、街角コンサートなど)
コンビニがまちづくりガイドラインを守る

街中は郊外商業施設に比べ、人為的バリアが存在しやすい
放置自転車、自転車を暴走する者
火を外側に向けて喫煙する歩行者
携帯電話の画面操作に夢中な歩行者
地べたに座り込む者
しかし、コストが掛かり、対策は簡単ではない
通行空間からパフォーマンス空間に変えて、愛着を持ってもらうのが近道か

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やっぱり、わかりづらいかなあ。
読んでもらえばわかるでは、書評にならないのだが。
明らかに、自分のメモを公開しているだけになってしまったなあ。
でも、面白い視点がたくさん含まれている本なのです。

時間のある時に、商店街とか地方の経済とかについて、自分なりに考えを整理し
てまとめてみたい。それまでは、これでお許しを。

2011年10月8日土曜日

書評:人を動かす

D. カーネギー:人を動かす、創元社

サッカー日本代表のキャプテン、長谷部選手が読んだと書いてあったので、興味
を持った。
Wikipediaに紹介があるくらいだから、内容はそれを見ればよい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E3%82%92%E5%8B%95%E3%81%8B%E3%81%99

エピソードに彩られた本なので、それをいくつか挙げてみよう。

「他人のことに関心を持たない人は、苦難の人生を歩まねばならず、他人に対し
ても大きな迷惑をかける。人間のあらゆる失敗はそういう人達のあいだ から生
まれる。」−A. アドラー

「勤勉は希望の門を開く唯一の鍵」という古いことわざは信用できない。「まる
でどんちゃん騒ぎでもしているようなぐあいに仕事を楽しみ、それに よって成
功した人間を何人か知っているが、そういう人間が真剣に仕事と取り組みはじめ
るともうだめだ。だんだん仕事に興味を失い、ついには失敗し てしまう。」

「動作は感情にしたがって起こるように見えるが、実際は、動作と感情は並行す
るものなのである。動作のほうは意志によって直接統制することができ るが、
感情はそうはできない。ところが、感情は、動作を調整することによって、間接
に調整することができる。したがって、快活さを失った場合、そ れを取り戻す
最善の方法は、いかにも快活そうにふるまい、快活そうにしゃべることだ。」
−W. ジェームス

「ジョニー、お父さんもお母さんも、おまえの今学期の成績があがって、ほんと
うに鼻が高いよ。しかし、代数をもっと勉強していたら、成績はもっと あがっ
ていたと思うよ。」
より、
「ジョニー、お父さんもお母さんも、おまえの今学期の成績があがって、ほんと
うに鼻が高いよ。そして、来学期も同じように勉強を続ければ、代数 だって、
他の課目と同じように成績が上がると思うよ。」
とする。butよりandで表現することだ。

「車をどけろ! 今すぐにだ。ぐずぐずしていると車に鎖を巻いて引きずり出す
ぞ。」
より、
「あの車をのけてくれたら、ほかの車の出入りが楽になるんだが、どうだろう。」
と問いかける。


相手のことを考えて行動すると、相手が幸福になって、自分にもそれを返してく
れる。そして、ものごとがうまく回り始める。そういうことを説いてい る本だ
と思う。
若いうちは難しいかもしれないけれど、トライする価値はあるのではないか。