アントニン・レーモンドは、チェコ人の建築家である。帝国ホテルを建設したフ
ランク・ロイド・ライトと共に来日し、師の帰国後も日本に留まって多くの建築
をデザインし、多くの弟子を育てた。
ライトはオーガニック・アーキテクチュアを標榜したことで知られる。自然素材
もしくは地場の素材を用い、照明や家具なども建築の一部と見なせるような、さ
らにはできあがった建築が自然の一部と見なせるような、そんな建築を目指した
と解説してみよう。
「有機的建築」と対比する概念ということになれば「人工的建築」ということに
なろうか。工業的建築で埋め尽くされた現在の都会とは別の理想を掲げた建築。
だから、有機的建築は田舎が馴染む。
日光・中善寺湖畔には、明治の頃、多くの大使館別荘が建設された。ヨーロッパ
からやってきた大使とその家族達にとって、東京の夏は蒸し暑くて過ごし難かっ
たようだ。20以上もの別荘が湖畔に連なり、夏の外交は日光で行われるという状
況だったらしい。
その別荘のひとつが、レーモンドがデザインしたイタリア大使別荘である。杉の
皮を格子模様にした外壁が印象的な建物だ。ライトが帝国ホテル建設に大谷石を
用いたのと同様に、土地の素材を活かしたのである。造りは至って簡単で、湖に
平行に建物を配置し、部屋を湖に開放する。1階は特にその傾向が顕著で、広縁
の椅子に腰掛ければ、視界には湖と山が目に入るだけだ。
受付の女性が言うには、イタリア大使は、コモの風景に似たこのシチュエーショ
ンにこだわりがあったそうだ。イタリア北部、アルプスの南側に位置するコモ
は、確かに急な山肌をバックに湖の平面が映える。それに似ていると言えなくも
ない。本物に比べると、山が低すぎる気もするけれど。
10年ほど前に復元されるまで現役だったのだが、相当傷んでいたらしく、国の登
録文化財とは思えないくらい新しい部材が使用されている。原型を留めていない
のではないかと思ったほどだ。
しかし、まあどうでもよい。ここは湖を眺めながらぼーっとする場所だ。朝、
コーヒーをすすりながら朝日に染まった山肌を眺める。昼はレモネードを片手に
本をめくり、時よりヨットに目をやる。夕方は、ワインを傾けながら夕日に染
まった水面を眺める。そういう場所だ。
当方、少々働き過ぎだなと感じさせられた次第である。
いろは坂を過ぎたら、中禅寺湖半を立木観音方面に曲がり、歌が浜駐車場もしく
は運が良ければその先の専用駐車場に車を止めて、10〜15分の散歩の果てに、イ
タリア大使館別荘記念公園にたどり着く。開館は月曜を除く9時〜16時。ただ
し、夏は17時まで開いていて無休だそうだ。
2010年8月14日土曜日
イタリア大使館別荘
湖畔側よりイタリア大使館別荘を臨む
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