2011年10月14日金曜日

書評:孤独な心

落合良行:孤独な心、サイエンス社

「淋しい孤独感から明るい孤独感へ」という副題が付いている。

社会心理学者が、自分で見つけた「孤独感」というテーマをどう掘り下げていっ
たか、それを一般向けに記述した本である。私にとっては、研究のあり 方に大
変シンパシーを憶え、考えさせられる本であった。

(1)孤独感を定義づける
孤独に関する記述、哲学書や小説や辞書や自分の体験や、そういったものから、
孤独というものを自分なりに定義づけ、それを文章完成法(孤独を感じ るのは
「     」時である。」という文章の(  )内に分を入れてもらう。)で
確認する。
2つの側面が出てきたので、それらを表現する事柄を質問紙として調査し、因子
分析によって2軸が抽出されることを確認する。
2軸は、人間は個別なもの・異なっていて当たり前と感ずるか否か、現実に関わ
り合っている人達と理解可能と感ずるか否かである。

(2)時系列での孤独感の把握
青春期と老年期では孤独感が異なるのではないか。多くの年代で標準化した孤独
感テストを行ってみると、時間的展望に関する3軸目が出てきた。

(3)孤独感の類型の把握
2×2の象限を考えると4つの類型が得られる。その特徴を質問紙を作成して明
らかにする。

(4)他の感情との関連を調べる
孤独感と劣等感、疎外感といったものの関係を調べるために、多くの感情を日頃
どの程度感じているかの調査を実施。クラスター分析、因子分析などを 用い
て、関連を図示。関連の深い感情、グループとして感じられる感情を明らかにした。
児童期は疎外感、青年期には不安感・孤独感も関連、成人前期には憂鬱や無気
力、後期には疎外感・嫉妬・倦怠感など。このように、孤独感と関わる感 情が
時系列的に変化することがわかった。

(5)事例研究
カウンセリングの事例を通して、現実の孤独感を分析

...この流れは、非常にオーソドックスでもあり、手堅いものでもある。しか
し、まず概念を仮に定義し、実験的手法で得られたデータによりそれを 修正し
つつ明確にし、個人差や時間的な変遷まで踏み込み、しかし全体的な傾向を見る
ことで失われたであろうことを個別の事例から掬い上げるという 態度は、まさ
にお手本ではなかろうか。
量的研究と質的研究のあり方も、本来、こういうものである気がする。

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