その美容院のおやじの話である。
なんでも、創業100年を超える美容室で20年以上美容師を務め、最後の頃にはマ
ネジメント側にいたらしい。
美容師は腕を磨くと独立していく。育てた側として、それをただ見ているだけで
なく、緩やかにつなげることはできないだろうか。そういうことを考えた。一定
のマージンを払ってもらう代わりに、客の動向や最新の技術やマネジメントにつ
いての情報を提供する。大量仕入れしてシャンプーやカラーリング剤などを安価
に提供する。そういうことを提案したら、「まずは、お前がやれ。」と言われて
開いたのが今のお店なのだとか。
こういうことを提案するおやじであるから、なかなかに面白い。たとえば、修業
時代、美容師としてやっていけると思ったときの話を聞いたことがある。
見習いの頃、周りの美容師が誰も新聞を読んでいないことに気がついた。上客は
政治や社会情勢などにも興味を持つ人が多い。しかし、中卒や高卒の美容師が多
かった当時、そういった話をできる美容師はいなかったのだという。それができ
ればお客様を掴まえられる。そう思ったとのこと。
ひとつ偉いなと思うのは、今まで一度も専門を聞かれたことがないこと。専門を
聞かれて、それを説明するのも億劫だ。「建築」と答えて建て替えの相談をされ
ても困るし、「心理」と答えて人生相談されるのも困るし、「色彩」と答えて店
の壁の塗り直しを相談されても困る。経験として、そういうことを知っているの
だと思う。これはありがたい。
...ということで、2ヶ月に一遍の髪切りは、さほど苦にならずに済んでいる。
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